だってしょうがないじゃない/ザ・レセプショニスト/あなたを、想う
2019年11月2日~3日
『だってしょうがないじゃない』
坪田義史監督
2019年 日 1時間59分 ドキュ
ポレポレ東中野

歯に衣着せずにあれこれ世間話を喋る人が、ある場面にくると
「でもしょうがないよね」
で話が停まってしまう。
在宅ケアをしていると、ある患者さんにそういうケースがよくみられる。
身体のことだったり、社会(国や自治体)のバックアップの可否の件だったり。
あるいは消費税が上がることだったり、年金問題だったり、教育格差だったり。
ほとんどが健康格差につながる問題だ。
「いや、しょうがなくないでしょ」
と、こちらは言い返していたこともあった。
政治で改善してもらわなきゃいけない問題は、市民が声を上げなきゃ始まらない。
このまま弱い立場で甘んじていてはいけない、など言いたいことはいくらでもある。
でも、患者さんには「しょうがないよね」と口癖のように言ってしまうだけの、彼/彼女なりの長く重たい日々の背景があるのだ。
ということを感じるようになってきた。

発達障碍の人を主体にすると、「自分らしく生きているか」という点がはげしくクロースアップされる。
「誰もが自分らしく生きる」権利を保障するこの国の憲法が、ちゃんと機能しているかどうかが自ずと丸裸に見えてくる。
そしてそれは、僕らニンゲンがどう扱われているかを、如実に映してくれる鏡だ。
なぜなら、誰でも健常者か障碍者か、正常か異常かの境界線上グレーゾーンに生きているのだから。
みんなデコボコ。
みんな不具合と折り合いをつけながら生きている。
ちがいは、固定観念でカムフラージュして気づかぬふりをしているか、それともイノセントにナイーヴに過敏なまま生きているか、だ。
「どうせ、しょうがないよ」
と諦めるしかない気持ちにさせているのは、誰なのか。
その背景を問いつつ、寄り添わなくては。

まことさんという60代の発達障碍の叔父さん一人を、ずっと密着して撮ったのは、ADHDと40代で診断されたばかりの監督。
まことさんは被写体として全く動じない。
見ていてユーモラスだし、好奇心をもって見てしまう。
ただ、こんな視線で興味本位で見ていいのかどうか、臆する気持ちも出てくる。
でも、監督とまことさんのあいだには親愛の情とWINWINの関係ができあがっている。
カメラに晒すアグレッシブさを秘めながら、監督のあたたかなまなざしに救われる。

でもさて、発達障碍者(知的障碍者)の、親亡き後は・・・
訪れた母親ロスと、自立生活の危機。
「8050問題」(80代の親が50代の子の生活を支える) に伴う住居課題にも直面する。
母親とずっと二人で暮らしてきたこの家を、来年の冬までに出なければいけない、と告げられて、まことさんはつぶやく。
「だってしょうがないじゃない」
このあとまことさんはどうなるのだろう。
登場する福祉関係者の方たちもみないい人たちばかりだが、現状ではいい解決策がない。
この映画を見て、救われる気持ちになるのも半面だが、一方で障碍者ケアの問題を、自ずと強く浮き上がらせる。
「しょうがない」だけではもちろん済まないのだ。

<台湾映画2作>
『ザ・レセプショニスト』
ジェニー・ルー監督
接線員 The Receptionist 2017年 英・台 1時間42分
新宿K’sシネマ

2010年代つまり現代のイギリス。
民家を借りて密かに売春サロンを営む台湾人経営者。
そこでやむなく働くのは、生き延びるために駆け込んだアジア女性たち。
大学の文学部を卒業し就職活動するも職にありつけない台湾人ティナ。
同棲する彼氏もクビになり、部屋代も払えない状況に追い込まれ、サロンの受付嬢の職にたどりつく。
そこにはまるで『軍中楽園』(2014)のように戦時中の慰安所を描いたのかと見紛うほどの光景があった。
現代の移民たちには、難民同然の者から大卒まで、生きるか死ぬかの境界線を伝い歩く底辺の住人たちが街の片隅に潜んでいて、身分も学歴も無に帰す。

台湾出身で英国在住の女性が友人の自殺をきっかけに制作に挑んだ。
西欧の大都市に埋没するマイノリティの立場からの、同胞たちへの哀歌と故郷へのサウダージ。
7年間かけた根気は、切実な思いからだろう。
ドラマ性よりもドキュメント色を重視したつくりではあるが、陰を背負う登場人物たちや状況のリアルさには悲痛な物語が否が応にも滲み出てくる。
女性たちの演技は真に迫る。

第1回熱海国際映画祭グランプリ。
★★★☆
『あなたを、想う』
シルヴィア・チャン監督
念念/Murmur of The Hearts 台・香 1時間59分
ユーロスペース

こちらは対照的に、まぶたの奥に生じる「物語性」を主眼につくられた作品。
人物たちの肉親への情や、時間的背景、語りのファンタジーを存分に膨らませたシナリオ。
過去を引き連れた若者たち3人の現在。
時制を前後しながら、生き別れた親兄妹への思慕と憤懣、思い通りに生きられない現状が、3人それぞれについてじっくりと描かれる。。
複雑な感情の去来を、美しい叙情の海の映像と人魚の幻想に溶けさせ、イマジネーションの空へはばたかせる。

鑑賞前にあらすじを読んでおかないと人物相関が掴めないおそれもあるシナリオ構成で、終盤になってはじめて明らかにされる重要な過去もあり。
すべては見る側の想像と思索をたっぷりと広げてもらおうという意図に貫かれている。
監督は香港・台湾の重鎮女優シルヴィア・チャン。
『妻の愛、娘の時』を撮る3年前の作品。
脚本は蔭山征彦のオリジナルに監督が目をつけ共同開発したという。
蔭山は台湾で活躍する日本人俳優。

★★★☆
『だってしょうがないじゃない』
坪田義史監督
2019年 日 1時間59分 ドキュ
ポレポレ東中野

歯に衣着せずにあれこれ世間話を喋る人が、ある場面にくると
「でもしょうがないよね」
で話が停まってしまう。
在宅ケアをしていると、ある患者さんにそういうケースがよくみられる。
身体のことだったり、社会(国や自治体)のバックアップの可否の件だったり。
あるいは消費税が上がることだったり、年金問題だったり、教育格差だったり。
ほとんどが健康格差につながる問題だ。
「いや、しょうがなくないでしょ」
と、こちらは言い返していたこともあった。
政治で改善してもらわなきゃいけない問題は、市民が声を上げなきゃ始まらない。
このまま弱い立場で甘んじていてはいけない、など言いたいことはいくらでもある。
でも、患者さんには「しょうがないよね」と口癖のように言ってしまうだけの、彼/彼女なりの長く重たい日々の背景があるのだ。
ということを感じるようになってきた。

発達障碍の人を主体にすると、「自分らしく生きているか」という点がはげしくクロースアップされる。
「誰もが自分らしく生きる」権利を保障するこの国の憲法が、ちゃんと機能しているかどうかが自ずと丸裸に見えてくる。
そしてそれは、僕らニンゲンがどう扱われているかを、如実に映してくれる鏡だ。
なぜなら、誰でも健常者か障碍者か、正常か異常かの境界線上グレーゾーンに生きているのだから。
みんなデコボコ。
みんな不具合と折り合いをつけながら生きている。
ちがいは、固定観念でカムフラージュして気づかぬふりをしているか、それともイノセントにナイーヴに過敏なまま生きているか、だ。
「どうせ、しょうがないよ」
と諦めるしかない気持ちにさせているのは、誰なのか。
その背景を問いつつ、寄り添わなくては。

まことさんという60代の発達障碍の叔父さん一人を、ずっと密着して撮ったのは、ADHDと40代で診断されたばかりの監督。
まことさんは被写体として全く動じない。
見ていてユーモラスだし、好奇心をもって見てしまう。
ただ、こんな視線で興味本位で見ていいのかどうか、臆する気持ちも出てくる。
でも、監督とまことさんのあいだには親愛の情とWINWINの関係ができあがっている。
カメラに晒すアグレッシブさを秘めながら、監督のあたたかなまなざしに救われる。

でもさて、発達障碍者(知的障碍者)の、親亡き後は・・・
訪れた母親ロスと、自立生活の危機。
「8050問題」(80代の親が50代の子の生活を支える) に伴う住居課題にも直面する。
母親とずっと二人で暮らしてきたこの家を、来年の冬までに出なければいけない、と告げられて、まことさんはつぶやく。
「だってしょうがないじゃない」
このあとまことさんはどうなるのだろう。
登場する福祉関係者の方たちもみないい人たちばかりだが、現状ではいい解決策がない。
この映画を見て、救われる気持ちになるのも半面だが、一方で障碍者ケアの問題を、自ずと強く浮き上がらせる。
「しょうがない」だけではもちろん済まないのだ。

<台湾映画2作>
『ザ・レセプショニスト』
ジェニー・ルー監督
接線員 The Receptionist 2017年 英・台 1時間42分
新宿K’sシネマ

2010年代つまり現代のイギリス。
民家を借りて密かに売春サロンを営む台湾人経営者。
そこでやむなく働くのは、生き延びるために駆け込んだアジア女性たち。
大学の文学部を卒業し就職活動するも職にありつけない台湾人ティナ。
同棲する彼氏もクビになり、部屋代も払えない状況に追い込まれ、サロンの受付嬢の職にたどりつく。
そこにはまるで『軍中楽園』(2014)のように戦時中の慰安所を描いたのかと見紛うほどの光景があった。
現代の移民たちには、難民同然の者から大卒まで、生きるか死ぬかの境界線を伝い歩く底辺の住人たちが街の片隅に潜んでいて、身分も学歴も無に帰す。

台湾出身で英国在住の女性が友人の自殺をきっかけに制作に挑んだ。
西欧の大都市に埋没するマイノリティの立場からの、同胞たちへの哀歌と故郷へのサウダージ。
7年間かけた根気は、切実な思いからだろう。
ドラマ性よりもドキュメント色を重視したつくりではあるが、陰を背負う登場人物たちや状況のリアルさには悲痛な物語が否が応にも滲み出てくる。
女性たちの演技は真に迫る。

第1回熱海国際映画祭グランプリ。
★★★☆
『あなたを、想う』
シルヴィア・チャン監督
念念/Murmur of The Hearts 台・香 1時間59分
ユーロスペース

こちらは対照的に、まぶたの奥に生じる「物語性」を主眼につくられた作品。
人物たちの肉親への情や、時間的背景、語りのファンタジーを存分に膨らませたシナリオ。
過去を引き連れた若者たち3人の現在。
時制を前後しながら、生き別れた親兄妹への思慕と憤懣、思い通りに生きられない現状が、3人それぞれについてじっくりと描かれる。。
複雑な感情の去来を、美しい叙情の海の映像と人魚の幻想に溶けさせ、イマジネーションの空へはばたかせる。

鑑賞前にあらすじを読んでおかないと人物相関が掴めないおそれもあるシナリオ構成で、終盤になってはじめて明らかにされる重要な過去もあり。
すべては見る側の想像と思索をたっぷりと広げてもらおうという意図に貫かれている。
監督は香港・台湾の重鎮女優シルヴィア・チャン。
『妻の愛、娘の時』を撮る3年前の作品。
脚本は蔭山征彦のオリジナルに監督が目をつけ共同開発したという。
蔭山は台湾で活躍する日本人俳優。

★★★☆
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