たぴおかたぴおの「映画は見たけれど」

アクセスカウンタ

zoom RSS 『選挙に出たい』

<<   作成日時 : 2018/12/06 09:03   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

『選挙に出たい』
ケイヒ
監督
2016年 中・日 1時間18分 ドキュ
ポレポレ東中野
画像

劇場に現れた李小牧さんは背筋の伸びたスリムな長身。
鉢合わせになった僕とダミ声で笑いながら握手する。

日本在住30年の在日中国人1世で、歌舞伎町案内人20年の李さんは3年前、旧民主党・海江田万里氏の推薦で日本人となって新宿区議選に立候補した。

これはその史上初めてのレアな選挙の前後を、これまた在日中国人の若き女性監督がドキュメントした作品である。


立候補者の選挙活動に密着するドキュメンタリーとしては、マック赤坂氏などのいわゆる“泡沫候補”に焦点を当てた『立候補』(2013)や想田和弘監督が山内和彦元市議を追いかけて観察する『選挙』『選挙2』があるが、いずれも日本の民主政治の矛盾を当事者側から突いた記録として話題となった。

今作もそうだ。
外国人が“帰化”して2か月で、すぐに日本人として選挙に出る。
そのことだけでも十分ニュースだし、ましてや昨今、排外主義の風がますます強く吹く。
日本人の狭量さや民主主義感覚がクローズアップされることになり、興味をそそる。


なんたって、根城は歌舞伎町。
ヤクザや警察と渡り合わなければ生きていけない世界。
8人に1人が外国人という街。
外国人やマイノリティを包容し、育ててくれた自分の庭には恩返しをしたい。
「案内人」として風俗店や飲食店を紹介してきた立場も情もあって、「ホストの地位向上を」と謳う。

「普通の外国人よりも日本人の気持ちがわかり、普通の日本人よりも外国人の気持ちがわかる」
を売り物に、「架け橋」になりたい、と意気込む。

しかし撮影を始めると、ある程度予想していた通り、李候補への差別やバッシングや忌避に遭う。
「中国へ帰れ」
「韓国人はまだいいけど中国人はコワイ」
「何かほかに目的があるんじゃないか」

ふだん見えない聞こえない差別が次々と可視化される。
これは中国人も日本人も悲しい。

李さんは浴びるほど言われてきて慣れっこになっているだろうが、若き女性監督はあらためて日本人の中国人観を目の当たりにし、「マナーの問題など中国人にも直すべき点があると思う」と省察する。

一方で日本人はこれを見て、日中間の歴史や現在の政治外交の影響が個人感情に及ぼしていることに自覚的でない日本人自身を恥ずかしく思う。
と同時に、中国人に対するよくないイメージを全く持っていないと完全否定できる人はどれだけいるだろうか。

画像

李さんの選挙活動はたった1か月間。
なにもかも初めてで、手探りだから稚拙きわまりない。

出馬の届け出直後のインタビューで「立候補の目的は?」と訊かれて、
「これですよ。外国人が日本人になってすぐ立候補できたこと、これだけでも目的は達成ですよ」
と愚直に答えてしまっている。
たしかに中国共産党一党独裁の国から来れば、なんて民主的な国なんだと感慨深いのだろう。でも自己満足では誰も支持してくれない。方便でもいいからマニフェストを口にしなければ。

その正直な気持ちからもわかる通り、この初めての選挙では腹の括り方が足りなかった。
「ホストの地位向上」とか「公衆トイレを増設・整備」とかの各論ではなく、もっと歌舞伎町が理想実現の象徴となるようなマニフェストを掲げてほしかった。

上映後の舞台挨拶で質問に答えて言った。
「次回も出馬します」

となれば、東京五輪を控えて今「おもてなし」だとか「多様性」だとか喧(かまびす)しい世相に、自らを「外国人との共生」の代表として堂々と売り出してほしい。
そして今もなお多発する「ヘイト・スピーチ」「ヘイト・デモ」を絶対に許さない、「ヘイト根絶モデル都市」を標榜してほしい。

もっと広く、あらゆる「マイノリティ」を包容して“人間歌舞伎町”(グレート・カブキ?)を体現した者として、LGBTや貧困や障碍者やホームレスなどにやさしい街=ユニバーサル・タウンを目指せるはずだ。

「ホストの地位向上」がなぜ評判悪いかは、考えてみればわかる。それが浪費拡大システムであり、依存症生産システムだからだ。
そのビジネスを応援するのではなく、ホストから職を脱ぎ捨てたときの裸の個人たちをサポートし、主権者意識・人権意識を持たせるような活動をすればいいのである。
あらゆる「水商売」「風俗」で働く人たちが、そこで半強制ではなく任意で職を選び取れるような社会にするための、「道先案内人」になるよう頑張ってもらいたい。

画像

新宿で辻立ちする李さんのスピーチは、1カ月の間で変遷を見せていて面白い。
やがて、
「私に入れなくてもいいです! でも、投票には行ってください!」
と叫ぶようになる。
それこそ、主権者意識を目覚めさせる仕事だ。

当選するにはまだまだハードルは高そうだが、李小牧さんのコミュニケート能力の高さとキャラの立ち方を今のままにしておくのは惜しすぎる。

むしろ、歌舞伎町というこの魔窟に、政治主導で「差別をなくそう!」なんて言っても、逆にヘンに「クリーン作戦」なんて石原慎太郎的な建前と裏の狙いの違うことをやられかねない。
この街にも制度や正論では成り立たないある種の自浄作用やセーフティ・ネットがあるのだと思う。

「外国人と日本人の架け橋」というより、「行政と闇の世界の架け橋」「クリーンとダーティの架け橋」になってもらいたいな。


おりしも、「入管法改正」法案、つまり「外国人働かせ放題」法案が国会を通過しようとしている。
東南アジアからの実習生や人材を最低賃金以下で働かせる奴隷状態からの救出も、国際的な人権問題として切実に求められているのだ。

五輪、五輪と騒ぐ前に、歌舞伎町のシンボリックな役割は、風俗を輝かせるのではなくて、人権に光を当てることだと思う。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『選挙に出たい』 たぴおかたぴおの「映画は見たけれど」/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる